アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

アメリカの景気悪化と公共交通、ゼネラルモーターズ
2009/2/19

 急に経済が悪くなってしまった・・・。

 こうなる事は予想できなかったのか?という話があるが、これは実は911事件以降の一連の世界政治のごたごたの余波を引き継いだものらしい。911事件の混乱の影響で経済が悪化しないよう、アメリカでは低金利政策をとった。それがバブルの原因になってしまったらしいのである。当時、「戦時経済で景気回復」なんて言っていた知り合いがいて、「そんなわけないだろ」と笑い飛ばしていたのだが、結果的にそのとおりの結果になってしまった。

 バブルといえば、アメリカの公共交通の補助金は21世紀以降増大を続けているが、これもバブルに関係しているといえるのかもしれない。以前(これ、もう2年半にもなるのか・・・)は理由不明、と書いたが、アメリカの公共交通補助金の財源のうち、市町村の支出分は財産税、すなわち土地住宅の評価価格に一定割合の税率をかけて徴収、というケースが多い。評価価格は毎年改定されるので、住宅価格が上昇すれば、税収も増大して、公共交通に利用できる財源も増加する。アメリカの地方税制は複雑で、詳細は調べないとはっきりしないのであるが、もしそうであれば、税収減によって、アメリカの公共交通は財源不足に陥る可能性がある。日本ではオバマ大統領の「グリーン・ニューディール」でアメリカの公共交通の活性化が見込めるのでは、という期待があるが、実際には連邦政府の支援が増大しても、それ以上地方の財源の減少で、公共交通の活性化はストップ、ということになるかもしれない。あるいは、「グリーン・ニューディール」自体が、まったく新しいアイディアというより、公共交通他の財源不足に危機感を覚えた関連団体が要求した救済策を格好良く言い換えたものにすぎない、ということだろうか。

 今回の景気悪化でもう一つ興味深いのはGMの動向。ここ数年のGMの経営とサブプライムローンに結構関係があるという話が出てきたのが興味深い。GMは低所得者の車の購入用に子会社を通じて自動車ローンを提供。GMの子会社はローンの貸し付け資金調達用に、金融市場に債券を流通。この債券が実際には高リスクなのに低リスクの債券として流通・・・、GMは有利な自動車ローンがあるお陰で低品質の自動車でも売りつづける事ができたのである。
 この自動車ローン、歪んでしまったのはここ数年の事だが、歴史自体は古く、1930年代以降のGMの成長を支えたものである。自動車交通の普及にあたっては、自動車に乗るたびに利用料を払うのではなく、購入時に100万円単位の資金が必要というのが普及の障壁になることが指摘されるが、GMは他社に先駆けてローンを整備する事で、この障壁を取り払い、自動車普及を促したのである。
 ちなみにGMは、これを路線バスでも行った。自社のバス車体を購入してくれるバス会社に、資本参加という形で資金提供を行ったのである・・・これが有名な「GM陰謀説」で、地方の路面電車会社は、路面電車を購入しようとしても資金提供をする会社はいない(厳密にいうと、電力会社が資金提供をしていたのだが、それが1935年に禁止されてしまった・・・)のに、GMがバスを購入する際にはGMがお金を出してくれるということで、1930年代にバス化を進めたのである。ただし、GMの出資にともなって路面電車を廃止したという都市は、人口数万人、現在の地方ローカル私鉄より条件が厳しい都市ばかりで、GMが出資しようがしまいが路面電車を廃止したのは確実、大都市では大量輸送のメリットがあって、路面電車は1960年代までのこり、その盛衰にはGMの関与はあまり関係なかった。「GM陰謀説」とGMの自動車ローンとの接点はもうひとつ。歴史的に自動車ローン、あるいはそういった販売手法を定着させるための小売り戦略をめぐっての訴訟が歴史的に非常に多いのであるが、バス事業をめぐって争われた訴訟、というのもこうした訴訟の中の一つでしかないという点である。1948年に行われたGM、ナショナルシティラインズに関する訴訟は、「路面電車をバスに転換する事が独占禁止法違反」という形で争われたが、実際のところは「自らが出資するバス会社に自社のバスの購入を強制すること」に関する裁判なのである。
 GMの経営悪化にともない、陰謀説云々ももはや過去の話かな、と思っていたが、昨今のGM経営悪化の影響を受けてつくられたと考えられる民放のドキュメンタリー番組でちらっと出ていた。もういい加減脱却すべきと思うのだが・・・。個人的には、もう少し細かく資料を探索したいので、GM解体にともなって資料散逸なんて事がない事を祈っている。


 余談

 アメリカはとんでもない事になっている・・・筈なのだが、あるアメリカ人の知り合いにメールしたら「久しぶり、元気?169系に「モントレー色」ってついているのが気になってさあ、群馬県の山にモントレーってついてるの?アメリカに行く事があったら連絡してよ」。まあ、アメリカは、景気変動や失業当たり前の社会で、あまり深刻に考えていないのかもしれないが。
 ちなみに、こないだ日本にやってきた英会話の先生は「当分帰ってくるなと家族に言われた」との事。友人もどんどん首になっているそうだが、両親が働いている不動産屋は大繁盛との事。住宅市況が凍り付いているはずなので繁盛するというのも変な話だが、日本で住宅価格が暴落するとローンが沢山残るから売るに売れないという状態になるが、アメリカでは家を明渡せばそれでローンは帳消しになるので、ローンを貸した銀行に空き家が結集、銀行はその売却に腐心しているということなのかもしれない。 



  補足(2月28日)

  アメリカの緊急経済対策法(American Recovery and Reinvestment Act )では、都市交通に69億ドル、アムトラックに13億ドル(うち60%が北東回廊高速化事業)、高速鉄道事業に80億ドルを出すということになっている。ただ、公共交通重視というわけでもなく、道路にも270億ドルを支出するので、「公共交通中心の舵取りを進めている」と勘違いしないように。



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2009年2月18日作成