アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

バス補助金に関する一考察
2009/11/25

  最近ニュースを賑わせている「事業仕分け」
  実際はそれなりの有識者が参加してまともな議論も行なわれている、とか財務省主導(=良くも悪くも昔から密室でやっていた話を公開しているだけのようなもの)という話も伝え聞いていて、それらを総合すると実際は良くも悪くもすごいことをしているわけではないというのが結論なのだろうが、テレビを見る限り『ワイドショーの解説者感覚で素人が適当にやっている』感をぬぐえないのがどうも危なっかしい(※1)。「減らす」一辺倒の議論だからマイナスイメージというのも良くない。削った額のいくらかを敗者復活のチャンスを設けて、一部取り戻せるようにするとか、有識者が省庁に増額を要求するチャンスがあったりすると希望が持てるのであるが、政治の「劇場」的性格を強めてしまうので却って良くないのかもしれない(※2)。

  その事業仕分けで昨日、バスの補助金が議論されたという話をニュースで知った
  同じ国交省所管で地方バス路線の維持を目的とする「バス運行対策費補助(概算要求74億円)」については「見直しが必要」と判定された。
 産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091124/plc0911242119020-n1.htm より

  ニュースの原題は「地方に配慮、離島航路補助は見直さず」で、離島航路減額はなし(※3)、バス事業については車両購入費を減額という話である。
  この話、実は「バス運行対策費補助は、国の地方バスのほんの一部でしかない」という点で興味深い

  実は2002年のバス規制緩和を境に、国によるバス路線の補助は大幅に減額されている。一方で、営利ベースでの地方のバス路線は大幅に減少。これに対し、都道府県と市町村が補助を行い、「コミュニティバス・代替バス」が運行されているのであるが、財政に余裕がないのにどうしてそんな事ができるのかといえば「特別交付税措置」というのがとられ、補助額の8割を国が特別交付税の形で支給しているからに他ならない。この規模が500億円規模(※4)。
  さすがに別のところに500億円ほどの財源があるから無くせと言うのは乱暴であるが、統合を行なわないでこの補助金を存続させる事の大局的な意味は良く分からない。勿論、これは比較的距離の長いバス路線を対象としていて国あるいはその出先機関である運輸局が関与するのはある程度適切といえるし、以前からの補助金を引き継いだものであるから規制緩和時にいきなり廃止というのも事務手続き的には却って煩雑だった可能性はある。が、補助額の算出式はややこしいし、未来永劫残す必要があるのかといえばちょっと疑問な制度、車両購入費は不要(※5)、というちょっと良く分からない提案よりは、22年度以降の交付税との統合とかを提案すべきだったと思うのであるが・・・。個人的には国の役目として、地方の代替バスの情報把握(※6)やコスト効率化のモデル事業の推進に特化、その事業費に10億円単位の補助金を残すのがいいのでは、と思ったりするのであるが、まあ、これも議論は必要であろう。

  ちなみに、この議論の直後には、「バス利用等総合対策事業」の議論が行なわれ、結論は「廃止」。実は日本では都市のバスに対する補助制度が全くなく、ここに含まれる「オムニバスタウン事業」はその意味で重要だったのだが、削られてしまった・・・。なくてもなんとかなるか?と言えばあんまり反論できないのは確かなのであるが。


補足(11月28日)
  評価に関するコメントを見て、評価者が意外に好意的なコメントを残しているのに驚く、
「欠損補助はきちんと補助すべきだが、標準コストの算定等、経営インセンティブを強める必要があるのではないか(バス運行費対策補助)」
「欠損補助も車両購入補助も過疎化対策として必要(バス運行費対策補助)」
「離島支援の充実は必要だが、できるだけシンプルにすべき(離島航路補助)」
「仕方がないかと思われる(離島航路補助)」
  的な消極的擁護論に加え
「制度が整理されるなら予算を拡大してもよいくらい(バス運行費対策補助)」
「欠損補助については、より手厚い補助を行うべきであろう(離島航路補助)」
  積極策についての言及もある 
  また、
「バスを利用させたいのであれば、シンガポール的な別の方策がないと効果が弱いのではないか(バス利用等総合対策事業)」
 というような感じで、TDM施策についても述べられている。
 では、どこに問題があるのか?以前にも書いたが、地域交通は予算を移譲した上で地方に任せ、今まで国・地方にばらばらに散らばっていた権限を集約、一元化ればいいわけで、その点が批判・提案されている
「地域交通の確保は地域が自治体政策と地域連携政策としてできるように、細々した補助制度は廃止すべき(バス運行費対策補助)」
「事業の目的は特定の条件が整った都市では合理的だが、地方に交通規制権限を含めて委ねるべき(バス利用等総合対策事業)」
「財源も自治体に移し、地域と自治体の発想に任せた事業展開とし、国は技術的な支援等を行った方がよい(バス利用等総合対策事業)」
「調整などは自治体を中心に進めるべき(地域公共交通活性化・再生総合事業)」
「国が関与せざるを得ないのは、規制、ルールが多く、自治体自身では動けないため。そういうルールがなくなれば自治体が創意工夫の下動くことができるはず(地域公共交通活性化・再生総合事業)」
  中には、道路政策との統合案や、折衷案もあり興味深い
「地域交通については、道路も含め自治体が最終的に取捨選択するようにする(鉄道軌道輸送高度化事業費等補助)」
「国が関与する根拠として地域でできない、自治体の能力、実施上の難点をいうのであれば、補助対象を難度の高い自治体や事業に集中すべき(地域公共交通活性化・再生総合事業)」

 勿論、何だかんだいって結局予算が縮減されてしまったし、分権提案というのは、現行の国交省−運輸局−地方、という流れからは随分距離がある提案である(現行の制度が合理的かというとはなはだ疑問なのであるが)。このあたりをどう調整していくのかが今後の課題であろう(※7)。


(※1)スパコンの一件など、テレビだけ見ているとくものを分かっていない文系人間が切って捨てているような感じだが、実際は事業者の撤退(NEC、日立が5月に撤退)で計画が混乱、設計についても計算速度はともかく機構面では革新性のないものにスペックダウンしたもので計画を強行をしようとしていた側面があり、そこを専門家が「問題あり」と判定したというのが真実に近いらしい。ちなみに・・・先日某所で「公共交通政策を見る上で今回の事業仕分けは興味深い」と発言したら、言い終わらないうちに「現政府が何も考えていないと考えるのはおかしい」との専門家のツッコミを受けた。私も主張もそこなんだと弁解したが、「仕分け=悪」的な発言をする人があまりにも多くて、「そうじゃないぞ」と条件反射的にツッコミを入れるようになってしまった、という事であろう。
(※2)というわけで仕分けには(演出面で特に)何か納得はいかないのであるが、仕分けの提案者である某シンクタンクの代表とは超大昔に(講演の後5分ほどだが)議論を交わし、「これぞ日本を変える人材」と大いに感服した記憶がある。基本的には応援、曖昧さが残る議論に関しては、経済便益では図れない諸項目をスコア化して、スコアとコストの比で「社会的生産性」を求めるといったことはそう(極端には)難しくないので、その実用化を提案するというのが妥当なところだろうか。
(※3)まあ離島航路の補助金を削ったら離島に人間が住めなくなるので減額なしは当たり前であろう。原油高騰で実質減額状態なので、これ以上どうにかしたいのであれば、少なくとも、「離島支援をどうするべきか」の総合討論を経て、その上で、という事になろう。なお、経営努力を促す工夫等については、あれこれ行なわれているようである(リンク)。
(※4)報道資料「平成20年度地方バス路線維持費補助金及び公共交通移動円滑化設備整備費補助金の交付実績について」「別添1」の<参考>(3)に小さい字で書いてある。
(※5)交通補助金は無駄に使われる可能性が高い運営費補助よりも資本費補助が優先というのが普通。
(※6)中小事業者や小規模自治体だと煩雑になりすぎて詳細な情報は残していないようだが、GISや標準的な燃費情報等を用いた推計データでもいいから統一的なものが欲しい、と思ったりもする。
(※7)あと、この程度の力量があれば、ある程度政府与党から独立性を持たせて、高速道路の無料化の是非も、区間ごとに仕分け作業に組み込んで判断していく、という方法もいいかもしれない、と思ったりもした。マニュフェストとの整合性が問題になるのであれば、今回の知見を踏まえて参院戦前にマニュフェストの整合性検査、仕分けをしてしまうのも一つの方法なのかもしれない。

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2009年11月25日作成