アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

○減速度13km/h/s!驚異のPCC車
2003/12/24
 二ヶ月前にシカゴのエバンストンの古本屋に注文した古本"Cars of Pacific Electric Vol.1"が先週の土曜日にやっと到着した。船便でも通常1ヶ月もあれば到着するのだが、11月はクリスマスギフトの発送があるから時間がかかるのであろう(あまりにも遅いので中近東に行く荷物でもまぎれて行方不明になったのだろうと本気で考えてしまったが)。自分へのクリスマスプレゼントと言う言葉が流行であるが、予期せぬ贈り物になってしまった。

 この本、パシフィック電鉄の3冊組みの車両集の一冊目で、近郊用の車両中心に収録されている。詳細は、年明けにでもPEのページの中で紹介していきたいが、PCC車の紹介のところにあった加減速の数字が目を引いた。そこには

 加速 4.5mph/s
 減速 4.5mph/s 常用
     8.0mph/s 最大

 とある。単位がMph、すなわちマイル単位の時速であることに注目しよう。1マイル=1.6kmであるから、これは、

 加速 7.2km/h/s
 減速 7.2km/h/s 常用
     12.8km/h/s 最大

 といっているのに等しい。阪神ジェットカーの加速が4.5km/h/s、減速が5km/h/sであるから、これはとんでもない数字である。
 ためしに、600メートル以内での停止が義務付けられている日本の在来線内でどれくらいのスピードが出せるかどうかを計算してみることにした。

加速度a、速度mの時の列車の停止距離D(単位km)は、

 で示される(筈)だから、これを展開すると

 m×m=7200×aD

 Dに600メートル(D=6/10)を放り込むと、
 m×m=4320×a
 という関係がでてくる(注)。
 PCCの値を代入する前に、aに色々な値をいれて遊んでみる。

 a=2 m=92
 a=3 m=112
 (最高速度120キロの時、600メートル以内に停車するには減速度3.4程度が必要になるらしい。このあたりが普通の電車の減速度か?)
  a=5 m=146
(阪神ジェットカー+αの減速度なら在来線でも150キロ運転は可能らしい。高速域でちゃんとこの減速度がかかってくれればの話だが)

 さて、問題のPCC車であるが結果は以上のようになった、
常用(a=7.2)  176キロから600メートルで停車可能
最大(a=12.8)  235キロから600メートルで停車可能
 なんと、新幹線並みのスピードでも600メートルで停車できてしまう。化け物のような減速度である。アメリカのような車万能社会で数都市でも路面電車が生き残っているのはPCC車のおかげだと言うが、それもこの性能を見ればうなずける話である。

 ところで、PCC車は、この驚異的な減速を実現するためにレールブレーキを、高加速を実現するために、ギヤ比を高めた高出力モーターを採用している。そのため、数百メートル毎に電停や信号のある併用軌道でのスピードアップや、自動車との衝突事故防止には高い能力を発揮するが、均衡速度は65キロ程度、世間でよく言われている「高加減速車でのスピードアップ」を実現するためにはもっと大きいモーターを使わなくてはいけないことになってしまうが、これをやると莫大な設備投資が必要。「高加減速車でのスピードアップ」は、20世紀初頭のイギリスのグレートイースタン鉄道の蒸気運転の通勤列車で試みられたが、このときも路盤強化に莫大な投資が必要な事が判明し断念、以来、さまざまな試みが行われているのだが、阪神のような特定列車限定の試みを除けば画期的な成果を残していないのが現状である。
 また、計算上の結果からは在来線で新幹線を運転できてしまうような印象を受けるが、これも随分怪しい。240キロからかけるレールブレーキなんて恐ろしくて想像がつかないし、減速度12と言うのは時速20キロから5メートルで停止すると言うことで、かなり横方向に引っ張られる筈である。加減速は2とか3のレベルなら慣れの問題だが、10にもなると、体への負荷が無視できなくなってくる。自家用車のように原則シートベルト着用ならいいが、普通の電車だとちょっと恐ろしい。PCC車でこの性能を持たせたのは、単車運転なら乗客の状態を確認してブレーキをかける事が出来たからだと考えられる。ともかく、数字だけ一人歩きさせるのは要注意ということで...。

(注)PCC車は直巻電動機を採用している。直巻電動機は低速で高トルク、高速で低トルクなので、一定の加速で加速できる速度域(定引張力域)は少なく、「この加速力で50キロまで何秒」なんて計算をするのはさすがにナンセンスだろう。といって特性領域を計算するのは面倒。そのためここではバネや空気の圧力で調整がきくと想定できる減速の話に的を絞ることにした。

2004年1月11日

 このネタを活用しようと再計算したら計算が間違っていた・・・。しかも、掛け算の部分で・・・(反省して修正)。

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