アメリカ旅客鉄道史実地見聞録アメリカ旅行記>(4)簡略化された大陸横断旅行

(4)簡略化された大陸横断旅行
   +ミネアポリス空港内の鉄軌道交通システム
 
ノースウエスト航空のロサンゼルス発ミネアポリス行き757型機
 アメリカの大陸横断列車は凄い。機関車は3重連、そして荷物車に二階建ての寝台車、食堂車とラウンジにゆったりとしたリクライニングシート。1920年代の鉄道黄金期には、シカゴ行きの寝台特急は押し寄せる大量の乗客を1列車ではさばききれず、7編成を続行運転させたというが、運行本数こそ激減したものの、その威容は現在のアムトラックの長距離列車にも残されている。
 私のミルウォーキー行きの選択肢の一つも、この大陸横断鉄道であったが、旅程が限られていた事と、観光用の移動手段ではなく庶民の移動手段の実像を見たい、という思いから飛行機を利用する事にした。
 6月24日、この日の出発もロサンゼルス国際空港。先日の入国は比較的上手くいったものの、ロサンゼルス国際空港は混雑する空港として有名、私は早朝にベニスのホステルを出て、空港行きのバスに乗り込んだ。早朝であったために、郡交通局⇒サンタモニカ市バス、の乗換えを行う必要があったが、運賃は1ドル50セント、空港アクセス手段としては格安であった。
 もっとも、実を言えば、運賃に関してはサンタモニカ市バスの75セントに慣れていたために、75+乗り換え25セントだと思い、小銭の持ち合わせがなかった。バスでそれに気付き、大きな紙幣だとお釣りが出ないので大いにあせったが、運転手に告げると、『規則だから乗せられない』などとけちな事は言わずに1ドルで乗り換えチケットまで発行してくれた。日本で似たようなケースがないとは言わないが、こちらはそういったちょっとしたイレギュラー対応には愛想がいい、サンタモニカ市バスの車内には運転手の求人広告がのっていたが、条件は「笑顔で乗務できること」であった。
 郡交通局とサンタモニカ市バスの乗り換え地点である交差点では同様の乗り換え客らしき通勤客が大勢いた。車社会ロサンゼルス、しかも殺風景な郊外の幹線道路の交差点に大量の公共交通利用客というのは少々面白くおもったが、ヒスパニック人口が増えている(ただしバス待ちの旅客はヒスパニック中心ながらも、白人、アフリカ系、ヒスパニック混合)事と、莫大な額が投じられている交通補助金の賜物であろう。バスは遅れていて、通勤客は、「どうしたんだ、随分待ったぞ」と運転手に文句を言っていた。
殺風景な郊外道路の交差点。バスは遅れていて、待っている間に写真撮影ができてしまった。

サウスウエスト航空ターミナルビル前

 西海岸⇒東部・中西部のフライトは時差の関係で、見かけ上時間がかかる。本日のコースはロサンゼルス⇒ミネアポリス⇒ミルウォーキーであるが、正味の所要時間が5時間ほどであるのに対し、時差2時間がプラスされる。夕刻前に東部や中西部の諸都市に向かおうとするなら午前中に出発する必要がある。そんなことゆえか、空港は込んでいた。特に、自由席のサウスウエスト航空など、ターミナルの外まで人がはみ出ていた。
 本日のフライトで使用したのはサウスウエストではなく、ノースウエスト航空、格安系エアラインも検討はしていたのだが、大手のほうが安かった。距離的には札幌〜福岡往復くらいの距離がある日本であれば超長距離ルートに相当するルートであるが、運賃は円換算で18000円(支払いも円建てだった)、アムトラックの座席車の事前購入割引とほぼ同額で、高速バスグレイハウンドの格安券なら若干安かった筈だが、道中での飲食を考えるとこちらの方が割安。最速かつ最安であるというアメリカの航空機の現実がここにある。
 ノースウエストのターミナルに到着して最初の難関はセキュリティ・チェック。身に付けている金属類を外して金属探知機を通るのだが、公共交通に縁がなく、身の回りのものをコンパクトにまとめて移動するという習慣がないアメリカ人にとってこれは少々厄介なことらしく、ポケットをひっくり返して中身を取り出すために、ザラザラという音が響き渡っていた。もっとも、皆そうであるので、日本人としてはだらしな系に属する私にとっては少々都合がいいという話もあるのではあるが。セキュリティを抜けるとすぐに搭乗口。最近のアメリカの航空会社の機内食事情を考慮し、ファーストフードのコーナーで食料を調達して搭乗口に向かった。
 本日のミネアポリス行きはボーイング757、日本ではあまり見かけない機材だが、座席数250〜300程度で737と767の中間くらいの需要に対応した飛行機で、エアバスが幅を利かせている領域で活躍しているといえば分かりやすいだろうか。通路は1列、3列のシートが両側に並ぶという点では典型的な中型機に見えたが。私の座席は3列の真中、窓側はおばさん、通路側はおっさんで、どちらもアメリカ人らしいがっちりした体型(乗客の体格がいいのに、座席の大きさや幅は日本より小さかったり狭かったりする・・・)だったので、私は半ば軟禁状態である。

身動きがとれない!時の写真

何だかんだいいながら1枚だけ写真を残している。おそらくサウスダコタかノースダコタ
 まもなく飛行機は離陸したが、でっかい人に囲まれているので外の様子は不明、縮こまっていると飲み物のサービスが始まった。ノースウエストの無料サービスは炭酸水だけと聞いていたので、「炭酸水=ガス入りミネラルウォーター」だけかと思っていたら、ジュースも何種類か選べた。ニュース記事の訳出ミス(「Soda=炭酸を中心とした清涼飲料」)であろう。これに前後して、機内食のサービスもあったが、これは有料制、サンドウィッチかスナックボックスを5ドルとか8ドルで販売するというものだった。高いし、何より品目に魅力がないので買おうなどという気は毛頭起こらず、販売の様子を眺めていると、隣のおばさんがスナックボックスを注文。隣のおばさんは、箱を開けて中を物色(本当にスナックボックスで、クラッカーやらスニッカーやらそんなものがいくつか入っている)して、これはいらないと判断したのか、サラミを取り出して私に勧めてきた。遠慮という文化はおそらくアメリカにはないと思うので、ありがたく頂戴し、ご挨拶程度に会話する。おばさんはやはり乗り継ぎでミシガン州のマスケゴンだかその周辺に向かうとの事(フリントやカラマズー、デトロイトといった都会ではないことは確か)。ちなみに後に見た印象で言っても、アメリカ合衆国では、飛行機などで隣合わせた人とはある程度会話することが礼儀らしい(しかも、カナダではどうも違うらしい)。
 さて、気さくなのはいいことなのだが、私の持ってきた小型パソコンに注目が集まったのは大変であった。隣のおっさん、おばさんだけではなくて、スチュワーデスまで眺めに来るのである。しかも、さっきまでの無愛想ぶりと一転、非常に愛想がいい(仕事では無愛想で、プライベートな要素が入れば入るほど愛想が良くなるのがアメリカのサービス業の基本的特長のような気が・・・。アメリカでは、プライベート感覚で仕事できるように職場環境を整備することが、顧客満足度を上げるための方策になるというわけである。)。当初は英文作成の作業をしていたのだが、スペルミスなど指摘されて恥ずかしいので、和文の作業に切り替えた。
ミネアポリス空港の様子1
賑わうモールと移動用電気自動車

空港内のケーブル・鉄軌条式新交通システム

線路の様子

真中に交換部分がある。写真を撮った際には気付かなかったがケーブルの移動に支障が
出ないよう工夫が施されている

交換部分のつづき、途中に駅があるのだが、ホームは常に片側、改めて見ると
駅配置はパズルのようで結構複雑

路線延長は結構長い。

終端部の様子

巻き上げ装置の様子(ちらっとだけ見えたものを撮影)



空港内の本屋、随所でみるアメリカ風のインテリアであるが、私の好み。
もともとはドイツの影響を受けたものであろう。この地はドイツからの移民により築かれた地である。

搭乗直前の写真

 そんなこんなで和やかな雰囲気の中、飛行機はミネアポリス空港に到着した。この空港、空港にLRTが乗り入れている他、空港内の移動システムとしてケーブル駆動、鉄車輪の軌道がある。冬の寒さが厳しい地方であるし、動力を一箇所で集中管理する水平エレベーター的な交通システムが最適なのであろう。水平エレベーターとなると、転がり抵抗の高いゴムタイヤ式より、抵抗の低い鉄軌道方式の方が有利である。乗り心地もなかなか良かった。ちなみに空港内はショッピングモールとなっていて、本や服を中心に色々な店が軒を連ねていた。食料に関しては残念ながらイマイチであったが、これはアメリカだけに仕方がない。出発を待つ人達は寛いでいて、犯罪大国アメリカの公共スペースとはとても思えなかった。
 乗り換えたミルウォーキー行きはエアバス。ロサンゼルスとミネアポリスは日本からの定期便もある主要都市で、機内にも東洋系の乗客が何人かいたが、ここから先は比較的ローカル色が強い路線で日本人は当然のように私一人。ファーストクラス(といっても国際線でいうビジネスクラス相当)が前の4列、16席分あるのだが、16というのが微妙な数で、一目で乗客の人種構成が分かってしまう。たしか3人か4人がアフリカ系で、もともとの人口比を考えると頑張っているなあ、という感想を抱いてしまった。今回の座席は窓側で、ウィスコンシンの平原を眺めているうちに、飛行機はミルウォーキーに到着した。
 ミルウォーキーに来た目的は、ミルウォーキーの少し南にあるラシーンという町に住んでいる父の知人に会う事。ミルウォーキー空港は、飛行機を降りてすぐのところまで出迎え客が足を踏み込むことができるらしく、すぐに会う事ができた(東洋人は私一人なのでわかりやすいといえばわかりやすいが)。知人はここまで車で迎えに来てくれたのだが、アメリカの空港は見事にパーク&フライで大空港には数千台〜数万台収容の駐車場がある。ミルウォーキー空港も同様でスーパーの大駐車場を思わせる立体駐車場があり、知人はそこに車をとめていた。キス&フライというのかどうかはわからないが、出迎えに来る人も多いようで、30分以内なら無料という話であった。知人宅にはその両親と親戚が遊びに来ていて、随分にぎやかな晩を過ごすことができた。

アメリカ旅客鉄道史実地見聞録アメリカ旅行記>(4)簡略化された大陸横断旅行