アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

○アムトラックはどうなる(2003年5月7日)

 時々ニュースで報じられているが、アムトラックの経営は大変である。
 アムトラックは存続の危機に瀕したアメリカの長距離鉄道旅客輸送を救うために1970年代に登場した国営の鉄道事業者である。旧ペンセントラル鉄道(のうちのペンシルバニア鉄道とニューへブン鉄道)の所有していた北東回廊線(+ミシガン州の一部路線)を自社の管理化に置く以外は、他の貨物鉄道会社の線路を間借りする形で列車を走らせているのだが、同じく1970年代に国の介入で登場した、東部の貨物輸送を担う会社であるコンレール(統合鉄道会社)の成功とは対照的に、一度も黒字を出した事がない。しかも、赤字の出し方に随分問題がある。
 例え赤字であっても、アメリカの都市交通がそうであるように、適切な赤字補填財源があったり、予算内で適切な列車のみを走らせる管理システムがあればいいのだが、アムトラックの場合は赤字の列車運行に関しては政治的圧力で行わざるを得ない状況があり、それに見合う費用は支出されないのである。日本の国鉄を思わせるような状態であるが、同時期に行った国有貨物鉄道会社コンレール(もっとも、旧鉄道会社の資産が一部現物出資があったはずだが)の経営に関しては日本のJRばりの成功をしているのが興味深い。アムトラックの経営危機は、アメリカ政府が財政支出を渋り始めたことにあるのだが、アムトラック自身にも資本費の積み上げ次第で独立採算でやれるとうそぶいていたという話がありややこしい話になっている。結局、旅客輸送を単一会社に任せるというシステムが間違いのもとだったと言う事で、再建案が最近議論されるようになってきた。
 再建案は、
・黒字経営の可能な北東回廊を、軌道は政府保有で運行だけ民営化。
・地域の委託運行を行っている通勤鉄道や短距離列車は地方政府に運営を任せる。
・長距離列車は運行会社を設立。
 というようなものである。アメリカの都市交通の再生の成功事例や海外の民営化事例などを上手く取り入れたもので、これなら上手く行くかなと思わせるものではある。

 ところで、時たまアメリカの政界では、鉄道など乗る奴がいないのだから廃止してしまえといった感じの議論が出る事がある。北東回廊は経営が成り立ち、通勤鉄道は混雑緩和や都市政策などの地域の思惑でやるので一律廃止という話ではないだろうが、その他の路線についてはどうなのだろうか。そう思って時刻表を見るといろいろと問題が見えてくる。
 まず第一に、長距離列車では1日1本以下になってしまっているところが多く、都市間連絡の機能を有効に果せなくなっている路線が多く見られるという問題がある。46の州をカバーしているとはいうが、早朝深夜にしか列車が通らないというのであれば列車があると言えるのかどうか(深夜時間帯にしか列車が通らない地方でも存続運動があるらしいが、このあたり、乗りもしないのに鉄道の存続運動をしたという国鉄末期のローカル線存続運動に似ている)。
 ところが、そう言う列車でもシーズンには利用客が結構いる。しかし、大陸横断列車などでは満席で走らせても多額の赤字を生むという。原因は何か、運賃が安すぎるのである。「有効時間帯にカバーできる都市数が少ない=観光目的でしか使われない」と言うように割り切って、満席を少し下回るような利用客になるよう運賃を値上げををして、それでも問題のある一部地域の住民や、障害者などに関しては独自の補助制度を検討するという姿が健全であるような気がする。
 また、北東回廊以外の中距離路線では表定速度が異様に遅い。600キロに10時間かける路線とか言うのがざらにある。これでは都市間バスとは別に列車を走らせる意味がわからなくなる(選択肢の確保とか、バス酔いする人対策とか、列車空間を好む人対象だという話もできるが、もともと全体の利用者が少ないなかで、限られた区間で、果して補助をしてまで走らせる必要があるのかどうか、しかもしばしばバス代行になるのである。)。もっとも、これに付いてはアメリカの交通政策の中で高速鉄道整備と言うものが打ち出されていて、全く異なるコンセプトで再生される可能性はあるのだが。
 アメリカの中長距離の旅客列車に付いてはお節介な改善案をいくつか持っているのでそれらはおいおい紹介する事にする。

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