アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

○ショッピングセンターと鉄道
2006/5/7
  岐阜市内線廃止で昨年はずいぶん話題になった岐阜都市圏であったが、鉄道の復権は中々難しいようである。それを象徴するように、こんなニュースが舞い込んで来た。

「モレラ岐阜」連日7万人 午後5時で閉店 浄化槽限界に・・・読売新聞

 このショッピングモール、樽見鉄道沿線の本巣市にできたもので、敷地総面積は21万平方メートル、駐車可能台数は約5000台の日本最大規模のもの、連休中ということもあって、1日で5万人の計画を超える7万人もの客を集めてしまった。近くを走っていた名鉄揖斐線は1日の利用客数が5000人程度、このショッピングセンターは樽見鉄道沿線にあり、樽見鉄道は駅を新設、100人に1人ぐらいは樽見鉄道でやってきたらしいが、残りの99人、総数にしてかつての揖斐線の利用客数の10数倍の人間が自動車で集まった事になる。
 ところで、ここからが問題なのだが、これだけ繁栄するという事は他にこんなものがなかったからなのかというとそういうわけではない。岐阜近辺は郊外型ショッピングモールだらけなのである。少し例を挙げてみよう。
 ショッピングモールの売上は企業秘密じゃ?と訝る方もいるかもしれないが、商店街としての群をなしているものは公表の対象内で、平成16年の商業統計表に掲載されている。岐阜市近辺の郊外型のショッピングセンター、モール、ロードサイド店の集中地区の中で、売上が50億円を越えるところを抜き出してみた。

店舗・地区名 区分 場所

駐車場 年間
売上高
岐阜市内(市域の売上合計4500億円)
アピタ岐阜」 ショッピングモール 岐阜駅の南方 27 91億
芥見商店街 ロードサイド店舗+SC 上芥見駅の東 46 83億
「マーサ21」 ショッピングモール 忠節駅北2km 2600 180億※
本巣市内(市域の売上合計400億円)
「リオワールド」 ショッピングモール 政田駅の南 61 2800 61億
「リバーサイドモール」 ショッピングモール 政田駅の南 52 6400 52億
関市内(市域の売上合計840億円)
「サンサンシティマーゴ」 ショッピングモール 関駅南西2km 59 2000 95億
山王通・緑ケ丘地区 ロードサイド店舗集中地区 関駅北西2km 53 123億
柳津町(岐阜市の南隣)内(市域の売上合計4500億円)
「カラフルタウン」 ショッピングモール 羽島郡柳津町 62 3000 192億
大垣市内(市域の売上合計1780億円)
「平和堂鶴見店」他 複合型SC 大垣駅南東 35 63億
禾森・築捨地区 ロードサイド店舗集中地区 大垣駅南3km 61 105億
「ユーストア浅草店」他 ロードサイド店舗集中地区 大垣IC近辺 36 68億
中野・楽田地区 ロードサイド店舗集中地区 大垣駅北1.5km 37 62億
安井・長沢地区 ロードサイド店舗集中地区 大垣駅南東 19 51億

上記の集中地区の場所

 郊外型ショッピングセンターの売上は総数と比べて極端に大きくないが、総数の中には駅前商店街でも郊外型ショッピングセンターでも販売しない(ロードサイド型には含まれている)、自動車と燃料が2〜3割ほど含まれているから、それを除けば割合は高くなる。
 岐阜市は一応駅前商店街も健闘していて(芥見商店街は経済産業省がそう分類した地区の名称で実態はロードサイド店舗、あの上芥見駅に年商80億の商店街があるわけではない。驚くべき事に、地図上ではすぐそばなのだが)、岐阜駅前の商店街は年商200億円、徹明町近辺の柳ヶ瀬商店街の売上は270億円である。しかし、どちらも郊外型のショッピングモール一つにしか相当しないというのは結構きつい。
 大垣市に至っては駅前が100億円程度に過ぎないのに、外延を取り巻くロードサイド店舗の合計は表に載っていないものを含めれば400億円にもなる。日常の買い物は郊外で、自動車によって済ませるという事が当たり前になっているというわけである。

在りし日の上芥見駅。のどかな風景と思っていたが、左側の土手の裏手をしばらく行くとロードサイド型店舗の一大拠点である。

  ちなみに、岐阜県民の自動車の保有率はアメリカと同水準の1人あたり0.7台〜0.8台である。20年前は自動車化が叫ばれていてもそれほどでもなかったのだが、不況をものともせず自動車台数は増加し、その結果がこの台数である。
  ここまで普及すると、郊外化の抑制手段としての公共交通の可能性は非常に怪しくなる。郊外型店舗の場所を見れば分かるように、人々の動きと鉄道路線が全く繋がっていないのである。現段階でこれを改善しようとすると、自動車の動きに合わせて非効率な鉄道網を構築し(しかも、ある程度高速で走れるよう高規格にする事が必須である)、低運賃で客を集めるしか方法はない。

自動車利用者の利便性を保ったまま公共交通網を完備しようとすれば、上記のような鉄道網を建設する必要がある・・・

 この流れは他都市にも広まるのだろうか・・・



<おまけ 海外のショッピングモール>
ミシガン州アナーバーで見たショッピングモール
衣類、家具など4店舗の大型店と小規模店舗の複合体だが、1平方キロはあろうと言うショッ
ピングモールに食品を扱う店がなく、食材調達に難儀した
なお、食品スーパーとこうした複合
モールにはバスの便があり、店舗入り口に横付けするかたちでバス停が設けられている(敷地外
では数百メートルは歩かなくてはならないため)


アナーバーの食品スーパー
入り口が極端に小さいが、これは大きさの割に来客数を大きく想定していないためと思われる。

スーパーの中。天井が高くて開放感があった

カナダ、トロント市郊外にあった巨大ショッピングモール
カナダの自動車化はアメリカよりは進んでないが、郊外にはやはりショッピングセンターがある
(もっとも治安の悪い都心−極端に治安のいい近郊 という両極端な関係はカナダにはない)


サンディエゴ、LRT路線隣接型スーパー
サンディエゴでは西は海、東は山と砂漠という地形を生かして、
公共交通連携型の都市計画を積極的に進めている


サンタモニカのショッピングモール
夜も安全に歩ける事には驚いた
(前日に夕暮れのロサンゼルスのダウンタウンでバス停の場所がわからなくなり怖い思いをしていた)


これはドイツ、ウルムのショッピングセンター

同上、アメリカに比べて人口密度が高いせいか、気質なのか、駅近くにあったからか日本のそれに近い雰囲気

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