アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

○増えつづけるアメリカの交通補助金
2006/7/1
  「アメリカは公共交通にいくら補助金を出しているでしょう?」という質問は面白い。ヨーロッパの都市交通の勉強を結構している人でも、「0」とかそれに近い額を答える人が多いのである。これは、

・アメリカはどこでも治安が悪い
・アメリカ人はみんなブッシュ大統領を崇拝している
・市場原理で建設されるアメリカの住宅は無機質
・アメリカ人はものを大切にしない
(1

  といった話と並ぶ大きな誤解である。

  上のグラフを見ていただければ解るのだが、アメリカで2005年に支出された公共交通の補助金総額は約250億ドル。日本円にして2兆8000億円にもなるアメリカは人口も3億人近くいるから総額の比較は出来ないが、1人あたりにすれば1万円、日本の場合1人あたり1500円〜2000人くらいであるから、その違いは明確である。
  この補助金、謎の変動が多く、筆者の頭を悩ます原因となっている。4年毎に金額が変わるから、「大統領戦対策か」と思いきや、4年後との変動要因の原因は州と地方の補助金額で連邦補助金はあまりはっきり動いていないし、1999年以降、額が急速に増えている。
  1999年以降の補助金の変動要因はどうしてなのであろうか?民主党のクリントン政権期に公共交通重視となり、共和党のブッシュ政権では911以降国防上の理由から公共交通への補助金を増やした、と書けばつじつまは合うが、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な解説で示唆に乏しい。そもそも、アメリカの道路支出は以下のとおりで、指数関数的に増加していて(さすがに2000年以降はこんな増え方はしていないらしいが連邦の場合、2007年度予算額は2000年の3割増である)、「車社会への反省」など片鱗も見られない(いくらかでも減っていれば、「アメリカは車社会からの脱却を図っている」と書き立てる事ができたのに・・・)。おそらく、ロサンゼルスやフェニックス、ノースカロライナ州のシャーロットなど、公共交通のなかった都市の人口増加が激しく、道路偏重を続けているといつか破綻するという都市がいくつか見られるから、それを見越してということなのだろうが、真相はよくわからない。道路支出と公共交通への補助金の一部の原資は燃料税や自動車登録税などの特定財源で、一般財源の基づく他の予算のように財政再建の影響を受けにくいのだが、財源は横ばいなのに、支出の方は増加気味。今後一体どうなるのかは興味深いところである。

(単位100万ドル)
(単位100万ドル)
  ちなみに、道路財源の項目には有料道路の料金収入というものがあった。その金額は2001年で8000億円弱と、日本の全有料道路収入の40%程度という結構なもの。アメリカには数千キロの有料道路網があり、ETCなどの料金支払いシステムも導入されている。いくつかの道路では民営化も議論されているというから、そのあたりは日本的とも言えよう。先にも記したようにアメリカの人口は日本の倍以上であるから、1人あたりにすれば5分の1以下であるが、「アメリカの高速道路は全て無料」と言い切ってしまうには少々多すぎる金額である。これも日本人のアメリカに対する誤解なのだろうか。
ワシントン・ダレス空港に向かう途中で目ざとく見つけてしまった高速道路の料金所
但し、全区間乗っても料金は数ドル程度で高くはない
なお、紫色の部分に「E-Zpass」というロゴがあるのだが、これは無線による料金収集システムで、日本のETCのようなもの。なお、ワシントンの市バスはICカード化を進めている。アメリカの地下鉄はローテクと言う言葉を鵜呑みにして(確かに一部ではそうなのだが)、ワシントンから来たアメリカ人にETCやSuicaを自慢したりしないこと(アメリカ人のファンの知り合いによるとたまにいるらしい、まあその日本人の方はSuicaもパスネットも熟知している鉄道ファンのアメリカ人がいることなど思いもよらなかったのだろうが)。


有料道路(有料高速道路と有料橋)の料金収入(単位100万ドル)

○おまけ

  道路の話に飛んでしまうが、日本のガソリンにかかる税金が高いというのも誤解。確かにアメリカよりは高いのだが、アメリカ・カナダ・ニュージーランド以外の先進国よりは格段に安く、やはり広大な土地を持つオーストラリア並である(こないだメールのやり取りをしたオーストラリアの鉄道ファンはガソリン価格に大差がないことに驚いていた・・・)。小売価格はヨーロッパの平均的な水準なので実はガソリン価格が高いのは業者の税抜き価格が高いせいなのである・・・。
  業界団体のHPなどを見ると日本のガソリン税が異常に高いように見える(一流企業が加盟している団体のくせにこの説明は情けない、稚拙な説明はやめて、自動車大嫌いの環境保護団体でも「敵ながらあっぱれ」と思わせるような説明があればかっこいいのに・・・)し、不注意なよそのブログやHPの運営者は見事に業界の言い分に踊らされてしまっているが、実は異常に高いのは流通コスト。確かに車が必需品になった今、自動車を抑制するためにガソリン税を取る事には大きな意味がなく(税金を上げても通行量が減らないという事は下げても通行料が増えないという事)、アメリカのように一部公共交通財源化(公共交通に補助金を出す事でピーク時の混雑が減り、自動車を利用したいという人にも相当なメリットがある)ならともかく、一般財源化には異論がでてくるわけであるが、税金が高いという主張はいかがなものか・・・。自分達が改善をサボっている事を隠す言い訳ではないかと陰謀めいたものも感じてしまうのは私だけだろうか(長距離輸送になるから高コストは理解できないわけでもないのだが、それならそうで中東から日本までの輸送コストをしっかり示して欲しい、それだって地理条件が同じ韓国より高い理由にはならないわけだが)。

●OECD諸国のガソリン価格及び課税状況(2003年7月〜9月)

●OECD諸国の軽油価格及び課税状況(2003年7月〜9月)



出典:国土交通省道路局 道路IR 7.決して高くないガソリン税等 http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/jroad04/07-04.html
HP内の規約に基づき、引用させていただきました。

<参考サイト>
アメリカ交通省HP内の資料
アメリカ交通統計局内の資料
1)解説
○アメリカはどこでも治安が悪い
・・・ダウンタウンはとてつもなく悪いところが多いが、郊外は良い。一国として考えると理解は難しいが、アメリカ=世界、ダウンタウン=途上国、郊外=先進国、とかいう例えで考えると分かりやすい。郊外に住む人はたまにダウンタウンに行く際には日本人が東南アジアに行くような感じで用心して行くし、ダウンタウンの貧困対策も日本人のアジア各国への経済支援程度の認識でしか行わないのでなかなか格差が是正されず、治安も良くならないという問題もある。

アメリカ人はみんなブッシュ大統領を崇拝している
・・・「アメリカが好き」というと「あんたはブッシュ支持派か」といわれるのだが、アメリカ人の半分程度を占めるブッシュ非支持派が好きなわけで、ブッシュ大統領は嫌い。日本人がみんな自民党の総理大臣を支持していないのと同じ事である。まあ、日米問わず、新聞はリベラル系、保守的な政権は批判するけど、実際の政治にはあんまりコミットしないという「劇場の観客」が結構いて、(悲しいことに)私はその一人という事なのだが。
○市場原理で建設されるアメリカの住宅は無機質
・・・コンクリート剥き出しの無骨な住宅はドイツが発祥(ジードルンク)。もっともジードルンクは機能美を重んじた建築様式を持っていたわけだが、日本のものは無骨な上に安普請であるという欠点が付加されてしまっている。まあ、どの代表格の公団住宅は、建設当時の一般住宅に比べれば遥かに高品質だったからいいのだが、半世紀近くを経てその束縛から脱していないのは悲しい感じもする。アメリカの住宅は、イギリスの伝統を引き継ぎ、大陸ヨーロッパ以上に伝統様式を重んじる。低所得者用公営住宅などはその典型例でクラッシックなデザインが好きな人にはかなり好印象に写るものばかりである(反面、前衛的なデザインの住宅を建てようと思ったら大変な事になる・・・)。アメリカの低所得者の居住環境はあまりよくないが、原因は老朽化した住宅に住まざるを得ない人が多いという事。秀逸なデザインの堅固な住宅であっても、築100年であまりメンテナンスされていなければ住み心地は極端に悪くなる。スラムともなるとそういった遺跡みたいな建物に居住、という人が多くなるわけである。
アメリカ人はものを大切にしない
・・・アメリカ人はDIY好き、壊れたものも大切に使う。環境負荷が高いのはどこに行くにも自動車でエネルギー消費が高いのと、電化製品が旧式で省エネになっていない事が大きい。

○その他
 「猫を電子レンジに入れるなと書いてあったので訴訟」というのも創作らしい


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2006年7月1日作成
      7月9日軽油とガソリンと記していたので訂正しました