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2.長距離旅客鉄道

 アメリカの大都市間には一応旅客列車のサービスがある。「一応」というのは、北東回廊と呼ばれるボストン〜ニューヨーク〜ワシントン間を除けば、通常の旅行客は利用しないという点で日本やヨーロッパとは異なるからである。通常の旅行客は利用しないので、駅前に繁華街が広がっているとか、鉄道を使って行きたい場所に出かける(100万都市級でも駅がないところがある)とかそういった事はあまり望めない。
 アメリカの旅客鉄道は観光用と考えておけば間違いはない。所用時間は勿論の事、価格や時刻の信頼性などでも飛行機に劣るため、沿線風景や飛行機に比べれば広々とした車内や食堂車やラウンジのサービスなどを楽しみながら時間を過ごす、あるいは3世代くらい前のご先祖さまの旅行を追体験(100年前にはプルマン寝台車や硬い転換クロスシートに腰掛けて数千キロを旅する事がアメリカ人の常識だった)してみるといったかたちでの列車での旅というものを売り物にしているのである。
 飛行機では車窓は楽しめないから観光用としての人気はそこそこあり、夏に寝台券を入手するのは至難の業だが、カナダのVIAは健闘しているものの、アムトラックに関してはあまり経営状態が良くない。アメリカ・カナダと同様の鉄道システムを持つメキシコでは収益を見こめない旅客サービスは民営化と同時にほとんど廃止されてしまった。

〇アムトラック
アムトラックホームページ http://www.amtrak.com/

 時刻表

 アメリカの旅客列車は1960年代に激減。このままではアメリカから鉄道旅客輸送が消えてしまうということで1971年に設立されたのが米国旅客輸送公社(National Railroad Passenger Corporation)アムトラックである。すでに多くの列車が線路上から消滅していたが、主要都市間で週3便〜毎日1本という最低限の列車がアムトラックによって維持されている。
 アムトラックの長距離路線は主に観光用であるが、値段はそう高くないものの、サービスについてはいまいちという感じの評価が多い。長距離路線では遅延が多く、故障などの理由で食堂車やラウンジが連結されない事も多い。座席は定員製で座席指定ではないので、家族で途中駅から乗り込んだら席がばらばらになって難儀したという話もある(レイクショアーリミテッドにシラキュースからシカゴまで乗ったというアメリカ人の知人談)。勝手知ってるアメリカ人ならともかく、日本人の家族旅行で寝台料金をケチって座席車という話はないだろうが、運賃を多少値上げしてもいいから工夫すればいいのに、と思ってしまう一こまである。
 安全性に関してもいまいちといったところ。誤解が多いようだが、信号他保安設備に関しては日本の在来線と同等以上のものが整備されている
(注1。とはいえ、保線状況他、整備の具合があまりにも悪すぎるので事故が起こるのである。事故率は統計的に見ても高いので注意する必要があろうが、自動車運転中や歩行中の踏み切り事故への遭遇確率も高いようなので、移動する際には(注意次第で防げる)こちらに気をつける必要があるかもしれない。


〇VIA(カナダ)
VIA RAILホームページ 
  (日本語ページ)

 カナダ関係の記事の作成は進んでいないが、アムトラックのカナダ版であるVIA鉄道だけは紹介しておこう。
 アムトラックの登場に合わせ、カナダにおいても旅客列車の運行事業者の上下分離と統合が図られ、1978年に設立されたのがVIA RAILである。アメリカの場合は群雄割拠の私鉄の旅客列車を纏め上げるのに随分苦労したのであるが、カナダの場合はカナダ国鉄(CN:Canadian National)
(注1)の旅客部門を分離し、これにカナディアンパシフィック鉄道とその他の小私鉄の列車を加えただけだから図式は随分異なるのだが。
 VIAの年間旅客輸送人数は390万人で2400万人を輸送するアムトラックの6分の1だが、人口が8分の1である事を考えると随分健闘している。経営状態もアムトラックに比べると良いらしい。

〇アラスカ鉄道
アラスカ州営鉄道ホームページ http://www.alaskarailroad.com/

 地理的に特殊な場所だからという事もあるのだが、アメリカでは珍しい旅客と貨物を兼業する事業体である。州営になったのは1985年との事。

〇メキシコ
メキシコ鉄道(Ferrocarrili Mexicano)http://www.ferromex.com.mx/
  チワワ太平洋線http://www.chepe.com.mx/ingles/index.html

 メキシコ国鉄が民営化されたのは1990年代の終わりの事。引き継がれたのは貨物部門で、メキシコ政府にはアムトラックのような旅客列車運営公社をつくる余裕などないため、旅客列車の多くは廃止されてしまった。アメリカと違って人口密度がやや高めで経済が発展途上にあるメキシコでは鉄道の需要は高く、1990年代のはじめには寝台車や食堂車を連結した長距離列車が各地を結んで走っていた事を考えると、メキシコの旅客鉄道の衰退は、モータリゼーションとか飛行機の普及とかいう話ではなく、運営の仕方を間違えたようにしか見えないのだが。
 現在では観光用に数路線が定期運行されているのみであるが、その中でもっとも有名で運行本数が多いのがメキシコ鉄道が運行するチワワ太平洋線で、別にページも設けられていたので挙げることとした。

〇観光列車等

  昔の優雅な鉄道の旅を演出したい。と思っている方には観光用の列車や、貸切用に稼動状態で保存されている車両をレンタルするという手がある。さすが鉄道趣味大国アメリカ、観光列車といって侮ることなかれ、アメリカプライベート車両協会の全国大会では往復5000キロのシカゴ〜ハリファックスに専用列車を運行、現在では定期旅客列車のない路線にも乗り入れる運行が予定されてい(たが、VIA鉄道と何やらもめたらしく8月1日にキャンセル。行先はアリゾナへ)。この専用列車運行の為に、全米各地から貸切車両がアムトラックの定期列車に便乗してシカゴとモントリーオールに集結するとの事。この他、観光列車としては、各地域で運行されているものと、アメリカン・オリエントエキスプレス社が決まったコースで運行する準定期列車的なものもある。情報はまだ完全ではないが、追々充実させていきたい。

チャーター用車両あれこれ

アメリカンオリエントエキスプレス社ホームページhttp://www.americanorientexpress.com/



注1)主要幹線では車内信号方式のATSが整備されている。アメリカのATSは速度査定を行うもので、ATS-PやATCに近い存在と言えようか。どちらも福知山線で装備していたものよりも高性能である。線路上に信号が無いのは車内信号方式の証なので、信号がない=原始的、と勘違いしないように。ちなみに事故といえば、アメリカの自動車事故は発生件数で言えば日本よりも多いが、人口が多いことと、1人あたりの走行距離が長いからで、走行距離あたりの事故発生件数は実は日本より少ないという話もある。道路が空いているから起こらなくて当然とみるべきか、向こうのほうが運転マナーがよいせいと見るべきか・・・


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2005年1月25日新設

2006年1月7日 URL移設、背景変更