アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

これからの地域交通政策とは(2) 〜交通基本法にコメントしてみる〜
2010年7月24日

  近頃急速に注目を集めるようになった「交通基本法」。注目度合いの変化は、「交通基本法」でGoogle検索にかけると1年前にはあまり関係のない私のサイトが上位に来たのに、同じ事をしても今や上位50番以内に見当たらない・・・といった状況からも理解できる。政府では、昨年末より検討会を開き、議論を進めている

  とはいえ、議論が充実しているかといえば、ちょっと論拠希薄な感じがしないでもない。検討会で数多くの研究者・事業者を対象としたヒアリングを行なっているのは事実であるが、基本的にはここ数年の公共交通事業者の環境悪化や、環境問題に関する問題が中心。歴史的にどのような議論がなされ、その上でどのような法案が望ましいのか?というような議論はあまり行なわれていない(※1)。この状況を簡単にまとめると、本来長期的な検討が不可欠な日本の交通のあり方を巡る議論を、ここ数年の公共交通事業者の環境悪化という短期的な問題の解決策の基礎理論に無理やり当てはめようとしている、といった感じになりどうも違和感がある。主眼は短期的な問題解決にあるのであるから、「地方交通対策基本法」といった感じで、より対象とする問題を明確にした基本法を制定したほうがいいのかもしれない。「基本法」がそれではまずい、と思われる向きもあるかもしれないが、実は「・・・基本法」とつく法律には、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」「特殊法人等改革基本法」といった感じの、短期〜中期の問題に焦点を絞ったものが多く、また、長期的な問題を対象にするにしても「がん対策基本法」「観光立国推進基本法」のように、問題を絞ったものが結構多い。「公共交通緊急対策特別措置法」なんていうのも良いかも知れない。もっとも、そう思うのはアメリカにおける都市公共交通の支援措置がおんなじような形で発展してきたという歴史があるから・・・というのもあるのであるが。

 さて、この交通基本法、木曜(22日)まで、「交通基本法の制定と関連施策の充実に向けた基本的な考え方(案)」へのパブリックコメントを募集していた。外野であれこれ言うだけ・・・というのも難なので、ここでコメントしてみる事にした。

<コメントの内容>
 上記のように書くと、このページの読み手は「緊急対策としての法案の構成が妥当」という内容を想定してしまうであろうが、弱腰な私は、「そういう大きな話は聞き入れてもらえないだろう」と遠慮して、現行案の細かい部分への指摘にとどめている。交通基本法をめぐる論争の中には、「何故『交通権』ではなく『移動権』なのか?」という問題もあるのだが、そのあたりも略している。といっても文字カウントしたら2000字以上、読む方としては相当な負担かもしれない。
記述内容の概要は下記の通り、概ね持論の繰り返しで、ポイントは下の3つ。

(1) 高齢者のための公共交通というが現実は本当にそうなのか?65歳〜74歳の免許保有率は50%を超えていて、自動車メインで生活している老人も多いと考えられる。また、より高齢者の場合(タクシーを含む)公共交通の利用が困難なケースが想定される。彼らに配慮した移動権の想定が必要。
(2) 「コンパクトシティ」という言葉の使い方が変な感じがする。コメントではあれこれ理屈を書いてあるが、簡単にいえば唐突で、時流に乗った使いかたをしているとの印象。
(3) 海外事例評価しすぎ。明治時代じゃないんだから、海外がやっているんだから、日本も・・・というのはどうなの(コメントでは本サイトで論じている陸上交通事業調整法以来の海外の政策事例導入の問題点や、フランスの都市交通政策の問題点などを記述している)?

 あれこれ書いたが、結論としては、法律を作るのは大変だなあ、という感じだろうか。よりよい法案作成が行える事を願ってやまない。


(※1)「昔をあれこれ論じない=前例踏襲型をやめる」、というのであれば良いのであるが、自動車と公共交通のバランスを考慮した政策というのは1960年代、1970年代に「総合交通体系」として散々論じられていて、「交通基本法の制定と関連施策の充実に向けた基本的な考え方(案)」も、そういった伝統を踏襲しているのか、同様の政策を議論していくうちに収斂進化的に同じような結論に達したのか、似たような事が記されている。1971年の総合交通体系答申が何故日の目を見なかったのか、あたりをしっかり見ていく必要はあると思うのだが。ちなみに、当時の法案の議論も、「フランスでは交通税が制定され・・・」という感じで海外に追いつけがたの話題で盛り上がっている。


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2010年7月24日作成