アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

○尼崎列車事故
2005/4/25
<以下の文章では、あまり感情を交えずに語っていくので冷たいという印象をあたえてしまうかもしれない、まずは、犠牲者の方にお悔やみを申し上げたい。また、以下は私の私見なので、各部署の方々は、この意見に関係なく、最善と思われる方法で復旧にあたっていただければ幸いである>
  関連項目−鉄道事故史はこちら


<5月5日加筆>
  ニュースが被害者のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に触れるようになった。この関係の報道は慎重に気をつけてほしいものだが、どうなる事であろうか。
  PTSDやトラウマも、素人が知りもしないのに理解しているつもりである概念であるのが非常に危ない。加えて言えば、専門家でも理解していないのか、保険診療上の問題からか不適切な対応を取らざるをえないのか、適切な対応を取らないので危なっかしい。PTSDとかトラウマの治療は、学問的には否定された治療法を専門家を名乗る人間が未だに実践しているというのが現状らしいし、素人は素人でトラウマの影響について曲解している面がある(知識がないとは思わないのが怖いところである・・・)。素人の反応は多くの場合、「事件のトラウマで・・・」「PTSDと診断されたから・・・」という理由で殻に閉じこもってしまう事を容認するか、逆に「トラウマやPTSDなんてただの言い訳」と完全否定して、トラウマやPTSDの精神への影響を認めないという両極端に分断されてしまう。専門家の方も、保険診療の都合上保険診療に合うような診断(制度上の都合で、診療報酬がなくなる時点で完治という診断をするとか、診療報酬が続く限りは良くなったという診断を下さないとか、そんな感じで)を下しがちになるので性質が悪い。
  良心的な専門家によれば、PTSDは過大評価されていうが、一方で現代社会は普通の生活上誰にでもある気性の変動などを認めず、あたかも機械のように行動する事を人々に求めていてこういった行動様式にも問題があろう。また、事故の被害者の家族などを問題にする時には、その個人がPTSDにかかる、かからないという問題を考えると同時に、背景にある少子高齢化や地域コミュニケーションの希薄化、核家族化なども問題にする必要があろう。個人的には寛容で適当に人間同士のつながりのある社会を望みたいのだが、実際はどうなる事やら(トラブルが起こらないようなしくみは必要だろうが)。



<5月1日加筆>
  ついに死者は100人を超えてしまった。死者100人を超える事故というのは、東海道新幹線の開通した1960年代後半以降の先進国で見れば、ドイツのICE事故くらいである。
  他の国に比べると運ぶ人数が多いということもあろうが、日本は歴史的に見るとそれほど事故が少ない国でもない(アメリカのように明らかに多い国もある)。また、日本が先進諸国の他国に比べて、列車の安全基準が高いという証拠もない。日本人が利用するという前提で言えば、日本の鉄道はトータルで評価して(海外なら外国人目当ての犯罪があるので)安全であるが、(アメリカ以外の)先進各国の人間が自国の鉄道をそれぞれ利用した場合の安全性にはそれほど差がないようである。その点を踏まえた安全規制システムの再構築を望みたい。

○脱線速度
  事故原因は速度超過、しかし、133キロで脱線、の意味はどういうものか。初日にも引用した「鉄道解析ごっこ」の計算式を借用して計算したが、そんなスピードはでてこない。重心の違いもあるし、計算不能と放置していたのだが、その後の「鉄道解析ごっこ」の加筆で意外な事が言及されていた。

〜133キロという速度は転倒する速度なのである〜

  列車の車輪が線路を外れる事と、車体が転倒する事は異なる(転倒する速度が133キロではないという話はそうであるかもしれないが、あまり意味がないと言う事にもなる)。転倒しないまでも、脱線する事で事故は起こるので、脱線する速度が問題になるが、これには正確な定義はない。脱線の問題となるのは、100キロほどといわれているが、条件によって高くなりもするし、低くもなるものでもある。私の場合乗り心地の問題もあるとはいえ、70キロという速度制限速度と安全性の関係を再度勉強する必要があるようである。

○軽量化
  相変わらず、マスコミは軽量化で強度が下がった、という話をしている。
  ステンレス化で電車は見た目は安っぽくなったが、そう強度が落ちているわけでもない、というよりも、一両あたりの重量もそれほど軽くなってはいない。

<103系 従来の通勤電車>
  サハ103 重量28.8トン   モハ102 重量39.7トン  7両編成約250トン
<207系 今回事故を起こした電車 %は103系に比べた重量比>
  サハ207 重量24トン(83%) モハ207 重量35トン(88%) 7両編成約200トン(80%)
<E231系 東京圏で用いられている代表的通勤電車(参考)>
  サハE231 重量23.9トン モハE231 重量28.3トン

  まず、大幅に軽量化したという文句は、「車体」をではなく、「列車」をであることに気をつける必要があろう。サハはモーターを持たない車両、モハはモーターを持つ車両で、当然の事ながら、モーターを持つ車両のほうが重量があるのだが、207系では103系に比べてモーターを持つ車両が減少していて、編成全体の重量が減少している。強力な交流モーターを半導体を使って制御するために、重量のあるモーターと制御装置を大幅に小型化できたのである。
  勿論、それをのぞいた重量も軽量化されているわけだが、新型車両に使われているステンレス鋼は、普通鋼に比べると数割から2倍ほど強力である。おそらく、103系に関しても、軽量客車の流れを引き継いだ普通鋼に比べれば強度の高い鋼材を用いて製造されたと考えられるが、3割ほど強度の強い材料であれば計算上は問題ないと言える。
  ステンレスを用いると、車両上の凹みやキズを隠せず、強度上問題があるかのような印象を受ける事はある。古い電車では凹みがないのに、新型車両では凹みが目立っていたりして、いかにも弱い材料を使っているように見える事があるが、塗装をする車両だと、パテで塗り固めて化粧で誤魔化してしまえるのである。実際工場見学にいって塗装前の車両を見ると、へこみやキズを塗り固めて誤魔化している事が良くわかる(逆に言えば、JRは強度を落としてコストを下げているというよりは、塗装や無駄な飾りなどこういう手間のかかる作業を省略してコストを下げているのである)。
  なお、この議論に関しては、「部分部分の強度がどう変化しているのか」という議論がない。また、最近の車両は全体的にスピードアップした路線で使うのに関わらず、その分の車両強度の拡大などをするべきかどうかという点に関しても言及していない事を付け加えておく。また、これだけの事故が起こったわけであるし、従来型車両、新型車両の実際の衝突試験等も行ってほしいものである。特に日本の経済水準や生活水準も上がっているだけに、本来ならエアバック装備くらいで望む必要があるという意見は意見としては間違っていない。そういった考えも念頭においた規制つくりが今後望まれよう。


<4月30日>
  家に光ファイバーを敷設するための下見とかで人が来るので、午前中自宅にいたのだが、TVをつけると、どの放送局もJR西日本福知山線(宝塚線)の列車脱線事故を取り扱っていた。


  この路線、大阪の隣の尼崎と福知山を結ぶ路線なのだが、尼崎と宝塚、そして新興住宅地の広がる三田との間の利用客は多く15分間隔で快速電車が運転されている。宝塚より先の山間区間では大規模なトンネル開削などを行い路線を改良、尼崎〜宝塚も線路を改良して、かなりの高速で走れるようになったのだが、尼崎の分岐点からしばらくのあたりはカーブが多い。事故は宝塚(伊丹)方面から直線区間をとばしてきた快速電車がカーブに入ったとたんに起った。

  スピードの出しすぎで脱線、だれでも思いつきそうな原因であるが、にわかには信じがたい。現場は半径300メートルのカーブで70キロ制限であったが、70キロというのは乗客の乗り心地を考えての速度制限である。勿論、「乗り心地」といっても酔うとかいう話だけではなく、速度制限を超えれば、乗客の転倒事故の可能性などがあり、これはこれで危険なのであるが、即、脱線というわけではない。と思っていたら、先ほどのJRの記者会見で、物理上の限界速度は133キロという報告があった。電車の性能や前の停車駅からの距離を考えるとこの電車(207系)がこの地点で130キロ程度に到達する事は不可能ではないが、しかし、この速度で通過したからといって確実に脱線するわけでもない。
  詳しくは素人目には分らず、今後の見解待ちと言う事になるのだろうが、可能性として留意する必要があるのは、車輪もしくは車軸の破損、レールの破断であろう。ドイツICEは車輪の破損で脱線し、同じように周辺構造物に激突して、大きな犠牲者を出す事故を起こした。また、イギリスの通勤列車事故では、線路が整備不良のため破断、そのために脱線事故を起こしている。

  さて、毎度の事なのであるが、マスコミの対応はいい加減である。しきりに事故の原因を会社側に確かめようとするのであるが、故意の妨害事故や自動車との衝突事故でもない限り、簡単に原因がわかったらそれこそ問題である。簡単に推察できる事故なら、未然に予測できなければならない、事故後すぐに「整備不良でした」なんて見解はあってはいけないのである(まあ、マスコミ側の質問というのも、「まさか、そんなお粗末な事故ではないですよね」、という確認の意味もあるのであろうが)。
  事故原因についても変な説が流れている。「軽くてカーブが曲がりきれなかった」、重心が高いのでカーブが曲がれないというのならわかるのだが、軽いというのは何だろう?
 また、正しいようで変な意見もある。軽量化で強度が落ちたというのは果たして本当か。軽量化が実現したのは、重量の割に強度の強い材料を使ったから可能なのである。勿論、強度の分析が進んだせいで、今まで分厚い材料を用いていた部分を不必要に強度の強い材料を用いてきた、と解釈し、強度の小さい材料に取り替えた可能性がある。しかし、部分的に無意味に強度が強いのは、強度の弱い部分に破損を集中させる可能性もあり、一概に良いとはいえない。このあたりは、必要があれば安全強度規制の対応などを行って欲しい。しかし、どうも、マスコミの見解は無塗装車体からアルミホイルを連想して語っている、といった観を免れ得ない。

  インターネット系の報道の中には、結構まともな記事もある。
   ⇒Asahi.comの中の記事
  また、私は、こんなページを参考にしていたりもする。
   ⇒鉄道を斬る 金沢工業大学機械工学科永瀬研究室HomePage
   ⇒鉄道解析ごっこ 学問的裏付けのある技術系マニアのHPか
   マニアを超越した〜普通のマニアに理解してもらえなさそうな〜作成スタイルに我がHPの理系版というイメージも・・・

  すでにネットニュースでは英語版も大量に・・・どれも通信社の配信記事を使っているようであまり差がないが、全容がコンパクトにまとまっていてわかりやすい。
 Boston Globe社の記事
 フランス語版AP通信
 ドイツ語記事 急行列車(Expresszugs)とあるのが気になる・・・
 イタリア語記事

  本来なら、記者会見などもこういった記事に見られるような既存事例をもとにして分りやすくしたほうがいいのであろうが、それをやってしまうと、「予期されていた事故」という印象も与えかねず、難しいところである。

  この事故では、かなりの犠牲者が出てしまったが、実際のところ人災的な側面も否定できない。JR西日本は高速運転を自慢にしているが、その反面余裕時分が少なく、客の乗り降りなどの通常の客扱いを行うだけで遅れが生じてしまう事がある。東海道線の新快速は高速運転が自慢であるが、乗降客の多い大阪駅でも停車駅は1分で、列車を時間通りに動かす事は至難の業である。私の予想は、車両もしくは保線の整備ミス(車軸の破損?)と速度超過の複合要因であるが、この場合も速度超過はそれなりに問題にはなるといえばなる。速度制限をもとに割り出している走行時間についてはこのままでも問題ないと思われるが、停車時間については再考を促す必要があるのかもしれない



「アメリカ旅客鉄道史+α」トップへ

「作者のアメリカ鉄道雑談」表紙へ


2006年1月1日 新URL移設に伴いリンク変更