アメリカ旅客鉄道史実地見聞録アメリカ旅行記>(7)シカゴの公共交通-高架鉄道とループ-

(7)シカゴの公共交通
   -高架鉄道とループ-
 
シカゴ名物 高架鉄道

  シカゴは世界最大の路面電車網を持っていた街、鉄骨高架の高架鉄道が現役で、通勤鉄道網は非電化のものとしては最大規模を誇り、その一部は未だに民間管理(アメリカでは運行も含めて公営事業者が行うのが一般的)。見学する場所は多いのだが、私は旅の疲れが出たのか風邪(らしきもの)をひいてしまい、あまり積極的に行動できなかった。
摩天楼がそびえる中心部の町並み

これぞアメリカの都会と言った感じの老朽化した高層アパート群
  だが、シカゴの光景は衝撃的であった。
  前述したように、ロサンゼルスは千葉の郊外を眺めているようで、異国と言うよりは千葉に住んでいた昔を思い出して懐かしいくらいであったし、ウィスコンシン州やシカゴへの線路沿いはヨーロッパの田舎やディズニーランドを思い起こすものであった。アメリカのアクション映画やドラマで出てきた、重厚だけど荒廃しかけた巨大な建物にお目にかかったのはシカゴがはじめてだったのである。シカゴの光景は写真のような感じで、ループという中心部は建物もかなり綺麗に整備されているのだが、そこを出ると怪しい建物が多くなる。シカゴ市内の公共交通の主役、「エル(EL)」こと高架鉄道はそんな市内の建物を縫うように走行していた。  

<高架鉄道の紹介>

高架鉄道の路線概要
赤と緑の部分が現存路線
カバー領域は荒くて空白地域も存在するが市内の公共交通の主役
ループ地域の拡大航空写真
濃青色はメトラ(通勤鉄道 後述)の路線でその他の色(薄青含む)が高架鉄道の路線
高架鉄道に囲まれた約700メートルの長方形の地域が「ループ」である
ループ近辺の様子
ループ内とウォーターフロントはなかなかいい雰囲気。
建物の手入れは良いし、カフェにはテラス席が目立つ。
勿論写真のような感じで昼間ある区分には問題ない


鉄骨高架の様子1

鉄骨高架の様子2
軌道は鉄骨上に枕木を引いただけ、ホームは板を置いただけと言う代物
当然のことながら、電車走行時は轟音を立てる


レッドラインとブルーラインは都心部では地下を走行する
ループ内の3駅はホームで繋がっていて巨大な一つの駅のようなのだが

駅と駅の間のホームはこんな感じ
もう少し明るくして犯罪を予防しようと言う考えはないのか・・・

ループを少し外れた場所にある駅(レッドラインのHarrison)
3番目の写真と同じ場所で付近には荒れた感じのビルもないわけではない
  高架鉄道は実はループとその周辺を少し利用しただけであまり利用しなかった。それでも、アメリカの地下鉄をはじめとする都市鉄道の雰囲気を味わうのには十分な体験ではあった。すなわち、目的あって自分の家と職場、よく知った店などを往復するには問題ないのだが、よくわからないまま知らない場所に向かうのは非常に危険であると言う、常識的ではあるが日本人には良くわからない雰囲気である。
  予想に反して、ループ周辺は綺麗に整備されていて、特に東側のウォーターフロント周辺にかけてはテラス席のあるカフェやレストランがあって、アメリカというよりは欧州の都市を思わせた。勿論車社会なので自動車は多いのだが、排ガスはあまり気にならない(それをいうならパリなども問題だろう)。が、高架鉄道自体はループとそこから少し離れた市街地を結ぶ乗り物。周辺地域には低所得のマイノリティ層が多く、乗客もそういった人が中心。但し、路線によって差があり、南や西に向かう路線はマイノリティが多く、途中から治安の悪い地域を走行し、車内の雰囲気も悪くなる。南部では下の写真のように、沿線に住む人もいなくなって空き地ばかりになった場所を走行する路線もある。
南部の治安の悪さはGoogle Earth を見ても一目瞭然
グリーンラインを乗って南に進むと、沿線はこのように空き地だらけになる。
一軒一軒の区画が大きいせいで芝生が目立つのは比較的裕福な住宅地の証拠なのだが、こんな感じで
もともとの区画割が長屋同然のもので、櫛の歯が抜けたように空き地がある場所というのは、都市部にあるのに
家を建てる価値がなく、廃屋同然の家を低所得者に貸して、それが崩壊したら空き地化という場所であるから治
安は最悪。全米でもフィラデルフィア市北部やデトロイト、イーストセントルイスなど限られた場所でしか見られ
ない。フィラデルフィアやシカゴの場合、公共交通の便があるのにこうなっているというのがすごいのだが。

  とはいえ、治安の良し悪しにさえ気をつければ、高架鉄道は面白い。都心部分の駅施設は改修の難しさから100年前のものをそのまま使っていて、ホームは木製、路線の改変があったためにポイントや中線の跡も無数に存在する。地下線は地下線で駅間にもホームがあって500メートル以上あるホームを歩くことができるし(但し、薄暗い中を歩くので薄気味悪いが)、そのホーム上から地下線を走行中の電車の写真を撮ることもできる(駅以外はホームに柵を設けるとか当然あってしかるべきことをしていないので、どこが駅だかわからないのが面倒だが)。電車の自動放送の車内放送は超丁寧、「○○ is next. Transfer to ○○ line and Metra ○○ line.(次は○○。○○線とメトラの○○線はお乗換えです)」といった感じの放送を流すのだが、何故か日本の英語自動放送よりわかりやすい。電車はループで超過密運転となるために阪神ジェットカーを上回る高加減速、戸袋に隙間が全く無いのでドアに寄りかかるとドアの開閉の時に怖い目にあうことになる。 
ふたたびループのひとコマ

残念ながら上と同じというわけにはいかなかったが1922年の
ループの駅のひとコマ(Adams and Wabash駅)

出典:Electric Railway Journal 1922 Sep. 23, p421

1)日本でひく風邪とも違う感じがしたので、医者に行くことも考えた。しかし、症状を英語で伝えるのも面倒だし、旅行保険会社に大病院に行けと指示されたら「ER」に行くことになる。近所の病院はクック郡総合病院でかの有名ドラマのモデル。それはそれで面白そうだが、体調悪いのにあんな場所にいって過労で殺気立った研修医の診察をうけるのってどう?あんな調子じゃ他の患者から変な病気うつされるんじゃ?と考えこの案は没にする(診察受けると抗生物質もらえるのはいいかもとこの時は思っていたが、アメリカでは基本的に風邪では抗生物質を出さないらしい)。かわりに出かけたのはスーパーの薬売り場で、国民皆保険制度のないアメリカの風邪薬売り場の充実ぶりはすばらしく、強度別に通常品と「成分同じで格安」と書かれたジェネリック医薬品が並んでいる。薬の内容に関しては日本のものと同じと薬学部の知り合いが言っていたが、値段は安かった。喉が痛かったので私は「スイス製」と記されたノド飴も購入、風邪薬のほうは効果不明だったが、ノド飴のほうは良かった。なお北米ではVICKSが日本の半額(場所によるかも、私はウォルマートで買ったので安かった)で入手できる。

以下余計な小話、
アメリカの医療費は非常に高いし、民間の健康保険の保険料も高い。小金持ちの人で、「自分は金があるから国民健康保険なぞいらん、アメリカを見習え」と考えている節のある人を見受けるが、実際の金額を知って払う気になるのかどうか・・・。下手をすると「アメリカの高い保険の保険料」は「日本の自費診療」と同じ水準で(家族で月20万とかいう保険があるらしいから)、アメリカの自費診療はブラックジャックに診てもらう水準になる・・・。興味深いことはもうひとつあって、国境一つ隔てたカナダは医療費がほぼ無料(州政府負担)なのだが、これを理由にカナダに移住しようと言う人はあまり聞かない。安い分質が悪く超倹約経営のカナダの病院ではそう簡単に検査などしてくれないからだ(昔は良かったらしい、アメリカの病院で治療した医療費を立替払いしてくれた時期もあったそうだ)。なお、無料というのは住民の話で、旅行者はアメリカと同じ水準の医療費を払う必要があるらしい。旅行保険への加入は必須であろう。

アメリカ旅客鉄道史実地見聞録アメリカ旅行記>(7)シカゴの公共交通-高架鉄道とループ-

2007年3月25日作成