アメリカ旅客鉄道史おまけ(雑談と掲示板) 作者のアメリカ鉄道雑談

ワシントン地下鉄事故とアメリカ新幹線計画
2010/6/27 加筆

  何かと忙しく、更新も進まないのであるが、小ネタを2つ


1.ワシントン地下鉄事故に関して

 6月22日(日本時間6月23日)、ワシントンDCの近郊、メリーランド州で地下鉄(レッドライン)の追突事故があり、9名が死亡。場所は北東の郊外のFort Totten-Takoma間なのだが、実はTakomaは私が2006年にワシントンに数日滞在した時に宿をとった場所で、20世紀初頭の古い建物が並ぶ閑静な住宅地。滞在にはもってこいの場所だっただけに事故はちょっとショックであった。
 ニュース報道では施設の老朽化、とりわけ車両の老朽化が強調されていたが、この路線は、公共交通活性化の為に連邦政府が大規模な補助金を出すようになった後の1976の開業で、東京の地下鉄でいえば有楽町線と半蔵門線の中間くらいの新しさ。銀座線や丸の内線と同時代の開業路線ばかりのニューヨークやボストン、フィラデルフィアの地下鉄に比べるとはるかに新しい。老朽化が指摘されていた当該車両についても、有楽町線の初代車両7000系のようにチョッパ制御からVVVFへの更新が完了していて、走り装置の面では問題なかった。真相は自動運転の実現するための情報をあれこれ流す配線の不具合で、まあ確かに老朽化(降雪地帯の地上区間なので、腐食に対処する必要があるのであるが、それが不十分だったとか・・・日本に比べて整備体制が甘い!といいたいところだが、日本でも検査体制の甘さで架線の切断事故等があり、偉そうなことはいえない)なのだが、ニュースで流していた情報とは微妙にずれがある。

 そのあたりの情報ソースは以下、ニュースソースへのリンクが沢山貼ってある。
http://en.wikipedia.org/wiki/2009_Washington_Metro_train_collision

 なお、財源不足が強調されていたが、首都特有の問題として、ワシントンDCの交通補助金の支出能力が低いという事情がある。手元の資料だと2008年の地下鉄部門の運営予算6億3000万ドルのうち、運賃収入は5億ドル、その他に、資本関係で数億ドルの支出があり、こちらは全額補助で賄われるのであるが(但し、その年の支出を全てカバーするのではなく、借り入れを行い、将来返済を行う分もある)、他都市に比べると補助金への依存は低い。これをカバーするため、というわけではないであろうが、ワシントンの地下鉄はアメリカでは珍しい距離別運賃で、しかもラッシュ時には割高の運賃を課すという強気の運賃設定を行っている。

 ちなみに、事故の起こった区間は地上であったが、郊外では地上を常に走るのかといえばそうでもなく、次のSilver Springsを出ると地下に潜り、次のForest Glen は地下60メートルにあって、地上との連絡はエレベーターのみ(地上はただの郊外住宅地で、店も無かったりするのであるが)。その次のWheaton駅も地下深くで、長大なエスカレーターが存在する。というような感じで、地下鉄レッドラインはアメリカの最近の地下鉄事情を知る上で興味深い路線だったりする。乗車お勧め路線として宣伝するためにも早期の再発予防策がとられることを願いたい。

レッドライン、都心の駅の様子
コンクリート剥き出しのドームがワシントンの地下鉄の特色
ちなみに、車両はサンフランシスコのBARTなどと似たような
仕様と考えられるが、加速は4.4km/h/sで少し鈍い
(実際乗ったときもそんな印象)

 ワシントン市街の様子
ワシントンというとホワイトハウス周辺ばかりが報じられるが、パリを模した
都市計画が行われた街で、高さ制限のために中層建築の並ぶ街並みは
なかなか良い雰囲気。街路には写真のようにカフェがあったりもする
(11月なので殺風景になってしまっているが)
 


2.アメリカへの新幹線売り込み

 夕方のニュースでJR東海の会長がアメリカへの新幹線の売込みを行っているところが報じられていた。

 が、報道内容はトータルで優れている的な話ばかりで、具体的に何を売り込むのかがよくわからない。
 確かに、スピードやコストという点ではフランス等に比べて劣ってみえるから、全体の平均点では優れているという事を強調する傾向がでてしまうということなのであろうが、東海道・山陽新幹線のように他線から独立したシステムを「車両だけではなく、軌道、保安システムを含めてトータルで導入」というのは現時点で既に無理である。カリフォルニアの高速新線に関しては、建設路線は既存路線に並行し、通勤列車が乗り入れる事がほぼ確実。通勤列車はおそらく客車列車で、機関車の実績に関しては、欧州の汎用電気機関車のほうが有利。また、駅施設は既存のものを活用する様子であるから、低速で走行する都市部に関しては既存の路線・列車と混在して走行する事が前提となる可能性が高い。当面走行の計画はなくても、貨物列車の規格に配慮した軌道、保安システムの要求という可能性もありうる。こういった状況では、「全部導入も可だが、部分導入では、車両とトンネル構造物が強い」的な宣伝が必要になると考えられるのだが、そのあたりの配慮、戦略が弱いような気がする(※1)。

 また、アメリカでの売り込み実績があるのに、そのあたりが軽視されているのが気になるところ。実績に関しては、すでに別のところでまとめたように、日本の新幹線技術は国鉄時代の技術指導により、アメリカの高速列車運行に実際に役立てられている。「もうアメリカでも実績のある技術なんだから」という宣伝が重要だと考えられるのだが、どうなのだろうか。

 ちなみに、ニュースではカリフォルニア以外の高速鉄道計画が報じられていたが、これは既存の線路の改良。東部については1970年代以来継続して行われていて、近年ではニューヨーク〜オールバニーやフィラデルフィア〜ハリスバーグの高速化が行われているが、日本の新幹線車両の導入とは縁の遠い話(ただし、軌道整備のノウハウは1970年代から80年代の日本の国鉄の技術提携の経験が生かされていて、ニューヨーク〜オールバニー間のうちニューヨークよりの通勤列車には日本製電車が大量導入されている)。中西部や南部に関しては、計画自体はあるのだが、なかなか進まないのが現状、しかも高速気動車になる可能性があって、標準軌で高速気動車の実績がない日本は不利(もっとも、振り子必須なので、キハ187の改良版で勝負すると意外に検討できるのではというふうに思ったりもするが)。


新幹線の海外売り込みについては、下記のようなページも作ったので興味のあるかたはどうぞ
アメリカで生きる新幹線の技術(2007年3月3日-北東回廊乗車報告付)
ベトナムへの新幹線の売り込みについて思う(2010年6月10日)(12月31日加筆)
ベトナムへの新幹線の売り込みについて思う・・・その2(2011年1月22日)


(※1)JR東海がアメリカのことをよくわかっていない可能性は結構あるかも、と思ったりもする。海外留学や現地勤務経験者も多いからあり得ない、と考えるのが一般的なんだろうが、日本人はアメリカについてわかっているようでわかっていないから、留学や数年働いた程度ではその溝がうまらない可能性も大きい。これを書いていた時に、「爆笑問題のニッポンの教養 ”FILE077: 「U.S. I LOVE YOU」”」で同じネタで大激論をやっていたのが面白かったが、人間の気質をいう前に、気候なんかでも誤解が多くて、アメリカ=乾燥or寒いで、東部の気候が日本と似ていて、夏は蒸し暑く、冬はドカ雪が降って時に豪雪に見舞われた日本の日本海岸よろしく交通が麻痺する、というのが意外に知られていない。JR東海では、新幹線を入れたらニューヨーク〜ワシントンが70分と宣伝していたが、金をかけて新線を作ったらどこの国の車両を入れても高速化できるのは当たり前(その種の計画は100年前からあって、ひたすら資金不足で実現できなかった)、蒸し暑い時の冷房能力とかどか雪が降った時の運行の信頼性を売り込んだほうが得策なような気がする。ちなみに、カリフォルニアは乾燥していて、沿岸部は涼しいが内陸は高温になる。


(8月28日補足)

  新幹線情報は結構需要が多そうなので、もう少し記事を増やそうかと思案中。
  その前に少し豆知識を列挙する。今回は過去の高速運転について、

○日本に新幹線ができる以前は、高速運転先進国で、長距離を表定速度100キロ前後で走る列車が日本でも宣伝された
 例えば、1956年の時刻表には、表定速度90〜110km/h台の列車が下のような感じであちこちで走っている
・「20世紀特急」ニューヨーク〜シカゴ(1587km)15時間45分 表定速度100.8km/h
  ⇒豪華列車としても有名で、個室寝台車と、食堂車、ラウンジ車、ラウンジ付き展望車のみで組成されていた
・「シティ・オブ・デンバー」シカゴ〜デンバー(1687km)16時間30分 表定速度102.2km/h
・「スーパーチーフ」シカゴ〜ロサンゼルス(アルバカーキ経由:3578km)39時間30分 表定速度90.5km/h
  ⇒ハリウッド有名俳優御用達の豪華列車として有名、1936年登場、全車寝台で組成(1971年まで)
・「シティ・オブ・ロサンゼルス」シカゴ〜ロサンゼルス(オグデン経由:3700km)40時間45分 表定90.8km/h
・「チャレンジャー」シカゴ〜ロサンゼルス(オグデン経由:3700km)39時間30分 表定93.6km/h
・「アフタヌーン・ハイアワッサ」シカゴ〜セントポール(ミルウォーキー経由:659km) 6時間15分 表定速度105.4km/h
  ⇒1935年に流線型車両の高速列車として登場(軽量客車と高速用蒸気機関車により6時間台での運行を実現)
・「モーニング・ゼファー/アフタヌーン・ゼファー」シカゴ〜セントポール(サヴァナ経由:687.2km) 6時間15分 表定速度110km/h
 ⇒ステンレスの車体で有名なゼファーの一員(詳細はこちら
・北東回廊線 ニューヨーク〜ワシントン(364.7km)の最速列車は3時間45分 表定速度97.3km/h 
 ⇒GG1という出力4620馬力、最高速度160km/hの電気機関車に牽引されていた

○表定90〜km/hの高速運転の始まりは1930年代、ディーゼル機関車やそれに対抗して製作された流線型蒸気機関車、軽量客車の組
み合わせで幹線特急のスピードアップが行なわれた。
○ニューヨーク〜ワシントンの電化が行なわれたのも1930年代のことで、電気機関車牽引の客車列車が3時間台で同区間を結んだ
(なお、1927年にリンドバークの凱旋写真をワシントンからニューヨークに送り届けるために運行された特別列車は、蒸気機関車ながらこの区間を3時間7分(平均速度116km/h)で走ったといわれている)
○電車運転では1910年代から1930年代まで、ワシントン・ボルチモア・アナポリス電鉄が、ワシントン〜ボルチモア間で路面区間以外の平均速度105km/hという特急電車を毎時1往復運行していた。

○なお 新幹線で盛り上がっている サンフランシスコ(サクラメント)〜ロサンゼルス間の旅客列車は昔からあまり多くない

1956年の時刻表によると
マイル マイル (1) (2) (3) (4) (4) (5) (5) (6) (7)
サクラメント
サンフランシスコ
オークランド
サンノゼ
サンタバーバラ
ベーカーズフィールド
ロサンゼルス


-
47
367
-
470
-
-

-
-
209
482

00:20
||
02:20
12:50
||
16:30

08:15
||
09:18
15:46
||
18:00

19:45
||
20:56
04:07
||
06:45


20:30




21:00
||
22:15
05:55
||
08:30


07:50
 


08:00
||
||
||
||
14:36
19:35
20:00
||
||
||
||
02:52
08:00


21:05
||
||
05:00
10:30

・サンタバーバラ経由
(1)鈍行:座席車のみ、食事サービスなし
(2)「デイライト」:普通座席車・パーラーカー・軽食堂車連結 表定速度77.5km/h
(3)「スターライト」:普通座席車・軽食堂車(終夜営業)連結
(4)「ラーク」:個室寝台車・食堂車連結
・ベーカーズフィールド経由(新線ルートに近い)
(5)「サンホーキン・サクラメントデイライト」:普通座席車・食堂車(ハンバーガー・グリル・ラウンジ)連結
(6)「ウエストコースト」:寝台車(個室・開放式)・座席車・軽食堂(スナックラウンジ)連結
(7)「オウル」:寝台車(個室・開放式)・座席車・食堂車(ハンバーガー・グリル・ラウンジ)連結
 の7本、
・1963年には4本に減り、1971年のアムトラック化後は「コースト・スターライト」の1本のみとなる。
(但し、現在では1950年代にはなかったロサンゼルス〜サンタバーバラ、ベーカーズフィールド〜オークランドの区間便が充実している、といっても1日数本ではあるが)
・1960年代後半のサザンパシフィック鉄道によるサービス改悪は有名。飲食サービスは自動販売機のみとなる
(きちんと動けばいいのだが故障が多かったらしい)

(2010年1月30日補足)
  「全米13路線で高速鉄道整備」の記事に「基地問題でダメになる」とかいうコメントが・・・。違うだろ〜と突っ込みたくなる(※2)。
  それにしても、「高速鉄道=東海道新幹線の定時性とN700系を売り込めばいい+リニアも少し」的発想には危機感を覚える。
  高速鉄道といっても全てが旅客鉄道専用の新線ではない、13路線といっても、本格的な高速鉄道を作るのはカリフォルニアとフロリダだけで、多くの改良計画は、姫新線高速化事業(総事業費80億円)と大差ないレベル。比較的額が大きいシカゴ〜セントルイス間だって、500〜600キロにあるの対し投資額は1000億円程度だから、新線はおろか、電化するのかすら怪しい。こんなところに新幹線車両を売り込むのは無意味、前に言ったキハ187とかキハ261を広軌化、200キロ運転対応として持ち込むのが適当だろう(※3)。アメリカ人の知人にいわせれば「700系は醜い(ugly)」「500系はかっこいい」そうなので、そのあたりのデザインセンスというのも考慮する必要がある(※4)。
  ちなみに、1月28日発表の13路線の内容は下記のとおり(正式発表のぺージはこちら)。

場所 区間 支援額
(億ドル)
改良/新線 最高速度
(マイル/時)
概要 完成予定年度
カリフォルニア 高速新線
サンフランシスコ〜ロサンゼルス
サクラメント〜ロサンゼルス
ロサンゼルス〜アナハイム
ロサンゼルス〜サンディエゴ
22.5 新線800マイル
改良880マイル
計画中275マイル
220 第一期が520マイル、ロサンゼルス〜サンフランシスコを2時間40分で結び、3500万人から5800万人の年間利用客を目指す 2020
2026
その他 0.94 〜110 在来路線の改良
2 ユージーン〜ポートランド〜シアトル シアトル〜ポートランド 5.9 改良437マイル
計画中30マイル
150 速度は将来計画。将来的には13往復を運行。
今回の予算で2往復を増発して6往復に、所要時間を5%短縮、バイパス路線を建設
ポートランド〜ユージーン 0.08 150 速度は将来計画。
3 シカゴ〜セントルイス〜カンサスシティ シカゴ〜セントルイス 11.02 改良570マイル 110 現行列車の高速化
シカゴ〜セントルイスの所要時間4時間、8往復
セントルイス〜カンサスシティ 0.31 110 計画中
4 ミネアポリス〜ミルウォーキー〜シカゴ シカゴ〜ミルウォーキー 0.12 改良144マイル
新線32マイル
計画中275マイル
110 現行(最高速度79マイル)から30%時間短縮 順次実施
ミルウォーキー〜マディソン 8 110 貨物線の旅客化(一部新線建設?) 2013
マディソン〜ミネアポリス・セントポール 0.01 110 未定
5 クリーブランド〜コロンバス〜シンシナティ クリーブランド〜コロンバス〜シンシナティ 4 改良250マイル 79 現在旅客列車運行がない区間に3往復の列車をを運行
元の書類には新線250マイル建設とあったが、貨物線の旅客化のことをさしていると思われる。
未定
6 デトロイト〜シカゴ ポンティアック〜デトロイト〜シカゴ 2.44 改良300マイル 110 現行列車の高速化 順次実施?
7 フロリダ タンパ〜オーランド 12.5 新線84マイル 168 両都市を1日16往復、1時間で結ぶ 2014
オーランド〜マイアミ 計画中240マイル 186 20往復運行、所要2時間 未定
8 シャーロット〜リッチモンド〜ワシントン ローリー〜シャーロット 5.2 改良480マイル 90 所要時間を4時間20分に 順次実施?
ワシントン〜リッチモンド 0.75 110 11マイルの軌道敷設とある、所要時間を現行の3分の1に? 順次実施?
ローリー〜リッチモンド 0.25 110? 順次実施?
9 ニューヨーク〜オールバニ〜バッファロー〜モントリーオール ニューヨーク〜オールバニ〜バッファロー 1.48 新線84マイル
改良1542マイル
計画中727マイル
110 最高速度の向上と1往復増発 順次実施?
ニューヨーク〜モントリーオール 0.03 110 定時運行のために3マイルの軌道敷設
速度は現行のまま(ニューヨーク〜オールバニは最高速度110マイル/時以北は79マイル/時?)と思われる
順次実施?
10 北東回廊 ボストン〜ニューヨーク〜ワシントン 1.12 150 新駅建設、ボルチモア付近でのトンネル開削費用
速度は現行のままと思われる
順次実施?
11 ブランズウィック〜ポートランド〜ボストン ブランズウィック〜ポートランド 0.35 線路の改良、踏み切りの除去、速度は現行のまま(おそらく79マイル/時)と思われる 順次実施?
12 フィラデルフィア〜ハリスバーグ〜ピッツバーグ フィラデルフィア〜ハリスバーグ〜ピッツバーグ 0.27 110 踏み切りの除去と、ハリスバーグ〜ピッツバーグ間の高速化(110マイル運転)の計画 順次実施?
13 ニューヘイブン〜スプリングフィールド〜セントオルバン ニューヘイブン〜スプリングフィールド〜セントオルバン 1.6 路線改良、一部軌道増設 順次実施?
その他 0.27
PDF版はこちら。自由に使って頂いて構いませんが使用前に御一報いただけると在り難いです

(2010年6月27日補足)
  「池上彰が日本の危機を緊急ニュース解説!号外!池上タイムズ」という番組で、中国がカリフォルニアに新幹線の売込みを図っているという話題が報じられていたが、「新幹線の技術を中国が奪って、それを元にアメリカへ売り込み」みたいな構成になっていて、他の話題の解説がしっかりしている(※5)のに比べてやや微妙(取材不足を強引にまとめている感じ)な感じだった。
  まず考慮しなくてはいけないのは、中国に技術提供しているのは日本だけではないという点。ドイツやフランスも同様の契約で技術の提供を行なっている。技術提供に関しては「技術を安価に売り渡した」と批判されるが、他国も同様のことをやっている現状では、多少でも日本規格の部品を使ってもらって、今後の輸出チャンスの拡大を目指すというのも一つの戦略ではある。特に、今後は元高、円安が進むので、「あのころは自国生産にこだわったけど、最近は自国の人件費も上がってきたし円高だから、日本からパーツを輸入したほうが安価だなあ」みたいな状況も起こりうるので、その際には、同じ規格の車両が運行されているという実績があることが重要である。
  また、新幹線は日本の技術、というが、電気系はフランス、駆動系はアメリカのパクり(初期の新幹線から最新の新幹線に至るまでギヤは「ウェスティングハウス・ナタール駆動」というアメリカの重電メーカーの名が冠された駆動方式が使われているくらいで)なので、中国が「高速鉄道は独自技術」と言い張るのを日本がどこまで非難できるかは微妙なところ。ちなみに、周辺の中国人の知り合い曰く「中国の新幹線乗ったけど、揺れまくって日本のに比べて乗り心地良くなかった」。メディアでは報じられる、中国の高速鉄道利用者の「これって中国の技術でしょう」という発言の理由ももしかしたらそこにあるかもしれない(知識人の場合「揺れまくるし、こんなの性能のいい外国製なわけないじゃん」的な皮肉がこもっている可能性がある)。

(2010年7月24日補足)
  パクリ=著作権・意匠権・特許権に反する不法行為、という事で書いたわけではないので念のため。ただ、当時のアメリカ企業が寛容でなければ、当時の国鉄の宣伝を見て、「勝手に日本独自を名乗られて損害を被った」という形で訴えられたかもしれない。
  厳密にいうと、1960年代の新幹線は、2002年に中国国鉄で開発された「中華之星」と技術の独自性という点では大体同じで、「中華之星」を断念して海外からの技術の直接移入を行なった中国国鉄は独自性でやや劣るというのが正確かもしれない(数年きちんと投資していれば海外と同等水準に達したのだから、勿体無いことをしたと思わないでもない)。



(※2)首脳会談中止くらいのことはあるだろうが、これくらいの事で鉄道車両が売れなくなるんだったら、なんでいつもアメリカに盾突いているフランスの鉄道技術がアメリカに導入されているんだ、という話になる。あと、自国軍が海外で好き勝手にやっているのをアメリカ人自身が納得しているかと言うとそうでもなくて、「あのお役所組織め、自国民の目に届かないからといって好き勝手やりやがって(こんな調子じゃどこで無駄遣いしてるかわからないぞ・・・)」的な感情を持つ人もいないわけでもない(アメリカ人の知り合いに「在日米軍の高速道路料金肩代わり」の話をやったら「うちの軍隊ってそんな適当なことやってるの?」とあきれていた・・・)。そこに訴える事も重要であろう。伝え聞いた話だとオバマ政権は日本通が少ないらしく、日本の行動パターンを理解できずに動揺している可能性が高いので、ここに何らかの工作が必要だろうと考えられる(政権中枢に助言をしている有名大学教授クラスの人間に日本の現状を説明して、「日本のいうことを聞くかどうかは別として、彼らの行動パターンはこういうものだ」という認識をもってもらう・・・とか)。あと、オバマ政権になってやや国の主導権が強まったとはいえ、高速鉄道の主導権は依然州側にあるので、州政府の機嫌取りをすることも重要だろう。
(※3)中西部やシカゴ近辺の場合は気候が北海道なみなのでキハ261ベースが手っ取り早いような気がする。通勤用にキハ201を2ドア、転換クロスシートにしたものとか、姫新線に導入されたキハ122、127を提案するのも良さそう。いずれも変速機の耐久性に留意する必要があるがエンジン出力に関しては160〜200km/hで走行するのに問題ないレベル。
(※4)3年前に聞いた話。231系はどうなんだ?という質問が喉元まで出かかったのに聞けなかったのを未だに後悔している。N700系はどうなんだろう。
(※5)鉄道に関係ないところでは、金型生産における日本の凋落の表の中で、ドイツやイタリアがさして順位を変えていないところが気になった。日本製品は優秀なのだが、高級品となるとドイツ・イタリアあたりの製品を欲しくなるというもの(車とか鍋、家具とか)が多いような気がする。「10倍の価格出しても欲しい」というようなものが作れず、後発の国に容易に追いつかれる安い品々が「強み」の実態だったところが日本の限界かもしれないし、そこでドイツ、イタリアあたりを学ぶ余地があるように思う。

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2009年6月30日作成
8月28日加筆
2010年1月30日加筆